向の家 (愛知県尾張旭市) 
完成予定 : 2023年

前面道路は瀬戸街道が通っており、そこからもう少し南へ行けば旧瀬戸街道が現存している。旧瀬戸街道はかつて江戸時代中頃までは、沿岸部でとれた塩を信州に運ぶ道の一つとしての役割を持ち、江戸末期には瀬戸で焼かれた「せともの」を大曽根へ運び、大曽根から生活物資を運ぶ交易道路として使用されていた。また大曽根まで一日で行けなかったら尾張旭で一泊していたという記述があり、瀬戸街道のかつての賑わいを示す資料は見つからなかったが、インフラとしての機能を持ちながら宿場としての機能も最低限持ち合わせており、ある程度の賑わいを持った道だったのではないかと予想される。

西側は今回のクライアントの事務所兼住居の賃貸長屋があり、家が建った後もそのまま継続して契約する予定である。その西側建物と今回の敷地境界線までは2m程度の空地がある。敷地北側にはこれもクライアントが継続して契約している月極駐車場があり、西側建物の土地所有者が同じであることから、駐車場から長屋へのアプローチの利便性からつくられた私的な通路として活用されている。今回の敷地は、歴史的な街道と私的な通路が交錯する場所に隣接している。

この住宅のコミュニケーションの中心には庭がある。寝室であったり、廊下、LDK、吹抜を介した子供室、全て庭を見ることができる。その庭を介して視線があったり、声をかけたり、庭から様々なコミュニケーションが展開される。その庭のその先に前述した私的な通路が存在する。庭と私的な通路に引き戸を取り付け、開けば庭が拡張し、そこでさまざまな家族間でのコミュニケーションが生まれ、閉じれば導線を持った道としての性格に戻るような簡単な装置を設けた。

 

かつて道とは一日の多くの時間を使って過ごす生活の場、にぎやかな場所であった。それがいつしか建物が豊かになるにつれて、生活の一部であった道が目的地に行くためだけの動線になってしまった。今回の住環境はそれに対してあくまでも私的な道ではあるが開いてくことで、にぎやかだった道という存在を現代に合わせて取り戻せるのではないかと考えた。

用途:戸建住宅

構造:木造2階建て

建築面積:95.65㎡

延床面積:116.03㎡(1階:87.04㎡ 2階:28.99㎡)

模型写真:border design architects