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ROOM407 (愛知県名古屋市)
完成:2022年4月

環境を貫通するヴォイド

名古屋市にあるマンションリノベーションのプロジェクト。

日本の住宅は南の方角を大切にしており、南側に一番いい部屋、つまりは家族が集まる場所を持ってくる古くからの暗黙のルールがある。日本のマンションはそのルールを元にプランニングされていることが多く、南側を向いている住戸の方が人気が高いため、間口を細く、奥行きが長い区画を反復させて南向き住戸の数を増やすように計画されることが多い。

今回のマンションも例に漏れず南側に明るいリビング、北側に暗い個室、その間には水廻りや廊下が配置されていた。やはり間口に対して奥行きが長く、南からの光や風は水廻りや廊下などの中間地帯に飲み込まれるように北側に運ぶことを許されない状況であった。図面上や数値上では住むに困ることはないが、実情はリビングに光を取られ、空気が滞留するような環境になっている。

 

かつての日本の京都には表通りに面する長さに対して課税を行う制度があり、面積を確保するために間口は狭く、奥に長いうなぎの寝床と呼ばれる細長い平面の建物が存在した。

その中で「通り庭」と呼ばれる前通りから奥庭に対して貫通したバッファーゾーンを挿入することで光の共有や風の抜けを手助けする発明を行なって快適な住環境を形成していた。

 

今回のマンションは京都の「うなぎの寝床」が横や縦に並べられたものであると言い換えられるように感じた。そこで、通り庭を参照して、環境を整える装置として南北に設けられた窓から窓まで貫通した限定した用途を限定しない「通り部屋」という場所を設けた。

これにより風は窓から窓までストレートに抜くことができ、光も水廻りや玄関が入ったホワイトキューブに反射されながら北側まで到達することが可能となっている。

本来、南北に分断されて配置されていた様々な用途は東西に配置し、この「通り部屋」を建具の閉じ方によって逆に様々な可変的な状況に対応できるように考えた。

時にはリビングが拡張し、時には寝室が拡張し、時には3部屋に分けることも可能である。

用途を限定せず、可変的に使い方が変わるからこそ、この南北に貫通した空間を作ることを可能にしている。

この環境を整える意識を住まいの中でより強く実感してもらうために、「通り部屋」には進行方向に目地を持ったフローリングに、それ以外はタイル張りとしている。

 

今の日本の住宅は面積や部屋数など図面や実物などの空間ではなく、表やカタログなどで見られる数字に価値が置き換わっている。数字に住むのではなく、実物の住宅の中に住まうという理念を持ったリノベーションを実現させた。

用途 : 住宅(マンションリノベーション)

専有部床面積 :73.31m2(22.17坪)

写真 : 植村崇史写真事務所 植村崇史

受賞:LIXILメンバーズコンテスト2022 

   準グランプリ

​掲載:心地よい暮らしの間取りとデザイン2023

   (エクスナレッジムック) 

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