前回は移動式家具とはどういったものか、どういった考えを持ってデザインしているかをまとめました。今回はその事例の一つ「つらなり」という移動式本棚について詳しくご紹介します。
目次
本棚ってどんな家具?
①一般的な本棚
通常本棚は床に置き、何段か用意されている棚に本を差していきます。さら本棚自体は壁に寄りかかり、図書館などでは本棚通しが背を向けて配置されることがあります。これらの本棚は固定されているのが一般的ですが、身長によっては届かない場所が出てきます。その場合はステップなどを使って上部の本を取るという対策がなされています。
②移動式本棚の課題
今回紹介するのは「つらなり」という移動絵本書店のための本棚です。移動絵本書店ということで固定はおろか持ち運ぶことも考慮にいれないといけません。絵本という対象年齢が低い商品を扱うため、子でも大人でも同じ条件で絵本を探すことが重要です。前回まとめたように本棚が移動するという行為が、絵本と関わる上で特徴となるようなデザインにしなくてはいけません。さらに持ち運ぶ上で積み込む車に納まることも非常に重要であり、設置、解体、移動が容易にできるように考えなくてはなりません。
僕らが考えた「つらなり」という本棚
①つらなりという本棚
そういったことを考慮して考えたのがつらなりという本棚です。山型のパネルが連なることで90度を作り、そこに棚差し、面出しで本を置く本棚になっています。この本棚は様々な保育施設やマルシェなど、場所が確定的でありません。そのため壁に沿って配置するということが考えづらく、常に空間の真ん中に置かれることを想定しています。前後左右どこからでもアクセスできるような作りになっており、この本棚の周りを囲んで絵本を選ぶという想定を可能にしました。
②山型である意味
なぜ山型の什器が誕生したのか。それは課題でもお話しましたが、絵本という対象年齢の低いお子さんに対しても、分け隔てなく自らが絵本を選んでほしいと思ったからです。本棚の高さは25.5cm、お子さんが一人で歩けるようになる時期の平均身長が80cm程度。つまり一人で行動できるすべての年代の人がこの本棚に対して斜めの視線ですべての絵本を選べるということです。さらにこの本棚の特筆すべきは反対側でも同じように絵本を選ぶことができるという点です。本を選び、顔を上げると同じように選ぶお子さんがいて、オススメの本を手渡したり、様々コミュニケーションをとることができます。
③持ち運ぶ
移動絵本書店である以上、本棚を持って移動しなくてはなりません。この「つらなり」は4本のネジで固定をし、面出し棒も同じく4本のネジ取り付けられており、簡単に解体、設営することができます。解体後も三角のパネルは幅91cmで大人であれば簡単に持ち上げることができます。
まとめ
移動絵本書店はその時々で販売する場所も環境も異なります。なるべく多くの子どもたちに本に触れあってもらうためには、大人に頼んで本を取ってもらう、見せてもらうというアクションをなくすことが重要であると考えました。子どもが見て、気になって、手に取って、読んで、しまう。この一連の動作が子どもにとっての感覚や感情に任せたものでなければ、絵本との出会いが減ってしまうように思えます。そのためには手に取れる範囲に絵本を配置し、なるべく多くの子どもが本棚と対峙できる状況、さらに反対側にいる子どもにも絵本に関してのコミュニケーションがあれば楽しいのでないかと考えたのが、この「つらなり」という書棚です。この考え方は通常の固定された本棚ではありません。
この「つらなり」という本棚によって多くの子どもが様々な絵本と出会い、その絵本を通じて周りにいるたくさんの人たちとつらなってくれることを願っています。
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